今回は大企業出身者はなぜベンチャー企業で結果を残せな
いのかについて書いていきたいと思います。
以前、
マネージャーの仕事とは一般レベルの人でも大きな成果が
出せるよう仕事を「仕組化」することである
という記事を書きました。
この仕事の「仕組化」。
大企業ではしっかりしたものが構築されています。
しかし中小企業では仕組化がほとんどされていません。
このような内部体制の相違が大企業出身者が中小ベン
チャー企業で活躍できない最大の要因だとわたしは考え
ています。
■仕組化された組織に慣れてしまうと、そこから逸脱した
仕事ができなくなる
仕事が仕組化された組織にいると、その仕組・ルールに沿って
仕事をしていれば一定の成果が出せます。
しかしルールのない新しい業務を任された瞬間、その人はどうし
ていいかわからなくなってしまいます。
大企業には成果を出すための仕事の手順がある程度決められて
います。
ノウハウの蓄積もあります。
最低限の研修制度もあります。
一方中小ベンチャー企業に仕事の手順などありません。
結果を残したもの勝ちです。
当然教育なんてものもありません。
ノウハウは個人に帰属しており組織で共有されていません。
全て自分で開拓することが求められます。
そこに大企業出身者は戸惑います。
決められたことをやっていれば成果が出て給料をもらえていた
ところから、全てを自らで決めていく仕事に転換しなければな
らないわけですから。
中小ベンチャーにはこんなリスキーなことをこんな若い経験のない
人間に任せて大丈夫なのか?
ということが日常的にゴロゴロ転がっています。
経験のない若いころから手順も決まっていない、ノウハウもない
仕事を自らで開拓し軌道に乗せていく仕事をやってきた人と、
決められたことを、決められた手順で仕事することが評価につながる
環境でやってきた人と、大差が出るのは当然です。
中小ベンチャーにおける成果とは、能力差ではなく元々のこのような
職場環境の差によるものだとわたしは思います。
元々備わっている能力で言えば確実に大企業出身者のほうが高
いと思います。
■中小ベンチャーの厳しさ
わたしが今働いている会社は飲食店を経営する典型的中小企業
です。
中小企業なので万年人手不足だし、組織も全然できあがっていま
せん。
大企業のような本社のバックアップなどほとんどないので、お店の
業務は基本的には個人の力で全て突破していかなければなりません。
例えば販促をするならどのようなキャンペーンを実施するかを自ら
で全て考えていかなければなりません。
販促を実施した場合売上増がどれくらいで、経費がこれくらいかかっ
て、結果こういう利益をもたらすといった戦略部分から、販促物のデザ
インやポスター・POPをどこに何枚掲示するかといったところまでの
全てを取り仕切らなければなりません。
それを上司か経営トップに直接提案し、決済をもらってようやく事が
動きはじめます。
次に販促物を作る人に依頼をかけます。
簡単なものなら自分で販促物を制作する場合もあります。
デザインや印刷を依頼したら期限通りに動いてくれるかとい
うとそんなことはありません。
中小ベンチャーには当然のことながら販促物作成専門スタッフなど
いません。
社員はみな複数の仕事を持ち、猛烈に忙しいのです。
「これお願いします」的な弱い依頼では忘れ去られてしまう場合もあり
ます。
そこで自分の店の状況やこの販促にかける熱意を担当者に
煌々と訴えかけ相手を動かすわけです。
自ら積極的に動かいていかないと何も進みません。
例えば人の教育にしてもそもそもマニュアルや教育のためのツール
などほとんどありません。
ましてや教育に関して本社が何か手助けしてくれることなど皆無です。
そもそも店に社員は店長一人しかいない場合もあり、全ての業務を
自分でやっていかなければなりません。
大企業では本社や組織が色々助けてくれたり、仕事の隙間を埋めて
くれるけど、中小企業にはそういうセーフティーネットのようなものは
何もありません。
全ては自らでやるしかないのです。
丸裸の本当の実力が問われる。
大企業にいた人はそこに戸惑うんですね。
特に役職が偉いところにいた人ほどダメですね。
大企業では会社や上司・部下が色々な面で組織的に手厚くフォローし
てくれるわけです。
ひとこと「これやってくれ」と命令すれば、みなが動いてくれる。
しかし中小企業は個々人の裸の実力が問われるガチンコ勝負の場。
どんな手を使ってでも、這いつくばってでも最後に勝ったものが勝者
であり、会社が決めた手順とかルールのようなマニュアルは存在しま
せん。
大企業のように貴族のような上品な振る舞いをしていては、生き残
れません。
そもそも役職や年齢、過去の実績で人を動かそうとしても誰も動き
ません。
今現在の実績が全ての世界です。
■某大手外食チェーンで本社人事部まで登りつめたエリー
トが中小飲食店で大ブレーキ。やがて退職していった理由
大企業で華々しい成果を出し、いいポジションでやっていた
人たちが、中小ベンチャーに来た瞬間並みの人になってしまう。
それどころか全く成果を出せず、意気消沈して退職していく事例
をわたしは多数見てきました。
実際にあった例をひとつ書きます。
Aさんは某大手ファストフード店で店長からSV、本社人事部まで
を歴任した方でした。
Aさんは入社後現場に配属され3ヶ月で店長に就任。
6ヶ月後には2店舗管理を任されました。
しかしAさんは店長として輝くことが全くできませんでした。
まずは体力面。中小ベンチャーではハードワークが求められます。
中小飲食業は労働時間半端なく長いです。
店に立つことは当然、発注やシフト調整、日々の細かい業務から
アルバイト教育、社員教育等仕事は尽きることがありません。
大企業では店に社員が多数いるので、大量の業務も皆で分担し
てやれます。
また最も手間暇がかかる人材教育に関しては、マニュアルが整備
されており、教育方法も確立されています。
また評価システムが用意されていたり、本社の主催する研修が
充実していて、社員教育の一部を本社が担ってくれます。
店長の上司であるSVからの店への指導教育もあり、組織的に
店長をフォローアップする仕組が整っています。
しかしわたしたちの会社にそのようなものはありません。
教育の全ては店長個人に一任です。
日々の営業全てを取り仕切り、運営のためのツールも自分で作り
出していかなければならない。
そういったハードワークな日々にまず体力が続かなくなってしまい
ました。
また売上を上げていくためにどのような販促を行っていくか?
という店長として最も重要な部分でも完全につまずいてしまいました。
大企業では本社が考えたチェーン店一括販促が基本であり、そういう
支援がなかったとしても、販促のためのアドバイスヤ案は上司が考え
てくれたりします。
でも我々にはそのような部署もないし、上司もプレイングマネージャー
なのでそんところまで関与はしません。
自分の店の売上を上げる方策は自分で考えなさいが基本です。
そこにAさんは非常に戸惑っていました。
結局何もできず競合店にやられるままにお店は売上を落としていき
ました。
このような状態を見てAさんの現場での活躍は難しいと判断した会社
は、じゃマニュアル作成をしてもらおう!ということでAさんに新たな業務
を与えました。
Aさんは元外食大手勤務です。
しかもその会社には素晴らしいマニュアルがあり、日本屈指の研修
制度があると言われている会社です。
そこに20年以上勤務していたAさんならきっといいものを作ってくれる
はずだという目算が会社にはありました。
しかし結果は厳しいものでした。
Aさんはマニュアルを読んできた人ではあっても、作る人ではなかった
のです。
やれと言われたルールは忠実に守れるけど、自らそのルールを作るこ
とはできない。
結局Aさんは失意のうちに入社1年で会社を去っていくことになりました。
Aさんは長らく大企業にいて組織から守られ、その組織のルールの中で
成果を出してきた典型的な人でした。
このような人がベンチャーに来ても何の成果も生み出すことはできません。
大企業出身者がみな仕組がないと成果が出せないかというとそうでは
ないと思います。
大企業出身者でも優秀な方はたくさんいらっしゃいます。
ただAさんのように中小ベンチャーには全く向かない方も多数いること
は厳然たる事実だと思います。
Aさんの事例以来わたしは仕事の仕組化の功罪を強く意識するようにな
りました。
今後会社が大きくなっていく過程で、Aさんのような大企業病社員をできる
限り出さないよう、制度設計していくことが重要であると今わたしは考えて
います。